人生折り返し地点からのデザインワーク

技と知恵と工夫を未来に

ブームにしないで欲しい

ここ5年ほど振り返ると、空前の錫(すず)ブーム。

かつて絶滅の危機ともいわれていたことからすると、嬉しい限りです。私の代々続く家業も、この錫と深いかかわりがあります。

江戸も中期ごろになると、素材が手に入りやすくなり、また経済が活性化して町民が裕福になってきました。それに伴って、錫工、錫商も沢山生まれました。とくに京都御所の周りや神社仏閣周辺には錫のお店がたくさん並んでいたようです。今でいうと、アルミニウムのように、当時錆びない金属器としてもてはやされました。溶解して再利用再生産が出来るので、循環型の江戸社会にもぴったり当てはまったようです。

 

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それが近世になると硬く量産しやすいアルミニウムに取って代わられ、姿を消しました。それまで生活の中で大切に使われていた錫のうつわたちも、戦争時の供出でほとんどが国に武器の材料として差し出され、使い愛でる文化さえも日本の生活から失われてしまいました。

 

それでもなお、細々と煎茶道と神社、一部の愛好家の需要があったおかげで、現代まで生きながらえてきました。

 

で、一言いいたいのは、

今のブームは嬉しい反面、困惑してもいます。

 

今どのデパートへ行っても沢山の錫のうつわが並んでいて、選ぶのも一苦労です。それらのほとんどは、長く使うことを考えられて作られていません。錫のうつわはやわらかい素材が故に疲労(何度か曲げると組織が破断し折れる現象)が起こりやすく、銀食器とくらべると耐久性にかけています。すなわち、随時お手入れや修理が欠かせないうつわでもあります。並んでいる商品の保証期間を、いちど店員さんにお訪ねなってはいかがでしょうか。おそらく半年や一年で壊れる可能性かあるとおっしゃるでしょう。そして、万一故障した際の、しゅうりがそもそも出来ないこともおっしゃるはずです。

 

私自身はどの制作者のものであっても修理は承ります。あと数年たって寿命(要メンテナンス時期)がおとずれたとき、もしかすると大波のように、故障したうつわが舞い込んでくるやもしれません。そのときに、修理代がかかるからといって修理を拒まれ、ゴミになってしまう錫のうつわや地金たちを思うと不憫な気持ちになるでしょう。

 

最後に

私自身は、錫で出来ていることの良さは知ってはいますが、それ自体を売り物にはしないでおこうとしてきました。やはり工芸の神髄は、美しさや機能、品質、加工技術などが研ぎ澄まされて作品の価値につながるからと考えています。

トークセッション「工芸とデザイン」

これからの工芸を考える祭典として、第1回「21世紀鷹峯フォーラム」(京都会議)行われました。2015年11月30日(月)〜12月6日(日)に”100年後に残る「工芸」のために”をテーマに、様々なイベントが開催されました。

 

私は、12月4日(金)に精華大学での回に登壇、料理研究家の杉本節子さん、アートディレクターの金谷勉さん、木工芸の中川周士さんとの4人でシンポジウムです。


杉本さんからは、京都の伝承的な暮らしの中で、工芸が果たしてきた数々の役割をご紹介いただきました。とくに、暮らしの中の食とうつわのかかわりのお話では、さすが旧家のお嬢様ならではの私も知らなかった風習をご紹介いただきました。

 

金谷さんからは、日本全国を巡る中でかかわった、地場産業の掘り起こしや地域ブランドの創造、産業技術の新しい分野への応用の事例を多数ご紹介いただきました。その数の多さと、深さに感嘆。

 

中川さんのお話は、京都のブランドや失われつつある技術、道具のお話をいただきました。中川さんとはもともと年が近く金属を扱っておられ、また仕事もすこし似ているところがあるので、普段から親しくさせて頂いております。かれの悩みや課題は自分のことのように思われます。

 

この一連の21世紀鷹峯フォーラムは、京都から東京、金沢へと順番に会場を移して、「100年後の工芸のために」議論や交流が続けられてゆきます。機会あればぜひご参加ください。

takagamine.jp

 

 

本能寺 三足の蛙 香炉

本能寺の大寶殿宝物館

伝説によると、本能寺の変の前夜、突然「三足の蛙(みつあしのかえる)」が鳴き出し、織田信長に異変を知らせたというそうです。この蛙の香炉、実物がいまも大寶殿宝物館に大切に保管されています。

(今の本能寺は能の字は右側のヒが違います)

 

で、この香炉、姿かたち、表情がすごいんです。もう愛らしくて、ユーモラスで、思わずほおずりしたくなるような。ただ、実物は大切にガラスケースに保存されているので、まことに残念ながら愛でることは叶いません(泣。

 

で思い立ったが百年目、これを再現することとしました。文化財を丸写しにすることが目的ではありませんので、実物から感じる私の心を揺さぶる要素を検証して、実物の姿かたちを十分に検証したうえで複製しました。並べて比べる機会があったとしたら、違うところはあると思います。それでも、実物よりもさらに良い作品を目指して腕を振るいました。

 

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いわばライフワークともいえる取り組みですから、もともと量産するつもりもないので、かかった多くの時間と諸経費と私の想い入れを考慮して、10体のみの製作としました。するとなぜだか待ち構えていたかのように、その10体は高額にもかかわらずすぐに完売してしまいました。完売後もなお、ぜひ譲ってほしい、お金に糸目は付けないからと有り難いご注文をいただいております。ただまことに申しわけないのですが、10体限りと宣言していますので、これ以上の製作は考えていません。

 

もしなにかの特別な記念の時(本能寺や信長のゆかりの年とか)、特別仕様を誂える時が来るかもしれません。その時まで、じっくりアイデアを練っておきます。

(金の蛙、銀の蛙、錫の蛙とかがいいかなぁ)

パリで市場調査2014春

フォレンツェからパリに飛んで、お得意先を回ります。

 

まずは、パリで和菓子といえばこちら、Walakuさん。

33 rue Rousselet 75007 Paris

(追記:Walakuさんはその後、2016末からおでんやさんへと業態変更。パティシエの村田さんは、パティスリー朋として移転オープンだそうです)

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オペラは見なくちゃね。ジャケットは羽織っていったほうがいいみたい。みなさん、カチッとした格好で(蝶ネクタイとか)で来てらっしゃいました。

 

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有名な老舗カフェも。お上りさん気分で。

 

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がっつり走ってます。パリは走りやすいですが、場所と時間によっては治安が悪いこともあるので要注意。

 

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パリの有名なアートディレクターとお会いして、ジュエリーの売り込みについて相談ちゅう。

 

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大好きな朝市めぐりで、刻印専門の屋台を見つけました。よだれもの。

フィレンツェをうろうろ2014春

イタリアはフィレンツェ徘徊しています。

私の主催する公募展の後援者でもあるロムアルドビアンコ財団のお招きをいただき、フィレンツェへやってまいりました。シンポジウムでの講演が目的ですが、その前後に会いたかった方をお訪ねしてきました。

 

まずは、展覧会“Mani – Materia – Poesia”でお世話になった、CIRO(チーロ)さんを訪ねて、電車で市内から30分ほどの片田舎へやってきました。英語まったく通じません!

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駅前のカフェで白タクシーを調達、15分ほどかけてCIROさんの工房へ到着しました。そこは野球ができるほどの巨大な倉庫で、ぎっしりと拾い集めた作品部品(素人目にはガラクタにしか見えない)で埋め尽くされています。

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まだまだお元気そうでしたが、ご高齢や持病もあって、創作ペースはゆっくりだそうです。

 

市内へ舞い戻り、次の日はちょこっと観光。名所も見てきました。

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ほいでまた別の日には、バスで15分くらいのところにある、ロレンツォのところへ。彼は以前、うちの職人を研修で受け入れてくれた同世代の金工職人です。

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陽気でおしゃべりな45才。ハグハグ・ちゅっちゅちゅっちゅしてくるので気恥ずかしかったです。

 

最後の夜は今回のメインエベント、ビアンコ財団主催のライフ・ビヨンド・ツーリズム総会での講演です。英語はしゃべれないので、文章丸暗記でやりすごしました。場所は、”Hotel Laurus al Duomo”の大ホールです。

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理事長のお誕生日お祝いケーキ、入刀

 

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スピーカーのお一人の画家さんに、私の後頭部をスケッチされていました。